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負ケラレマセン勝ツマデハ



敵を欺くにはまず味方から~第509混成部隊~

 どんなに秘匿しようとしても、情報は多少漏れるものである。あの帝国海軍の真珠湾空襲についてもそうであったという。昭和16年の11月末、逓信省札幌逓信局長遠藤毅は、「大艦隊が単冠湾に集合し、一般の通信を一切遮断して防諜を厳にしているから多分北方攻略の準備をしているのだろう」と知らされた。遠藤は「北方といえばアメリカしかない」と観念していたという。つまり、帝国海軍の開戦企図は無線の世界ではリアルタイムにバレており、ハル・ノートは機動部隊の単冠湾出撃直後に出されたらしい*1。
 広島、長崎に原爆を投下した第509混成部隊*2についても、全てを隠し通せたわけではなかった。当時、フィリピン戦線から大本営情報部に異動した堀栄三は、B29の日本本土への戦略爆撃に関する情報収集分析に携わっていた。その一環として、堀は正体不明の一群を割り出した。その一群は昭和20年6月中旬くらいにサイパンに進出した後、いきなりワシントンDCに長文を打電した。普通、爆撃機や戦闘機等は、所属する航空隊、基地と通信することはあっても、頭越しに軍司令部と交信することはほぼ無い。そのことから堀はこの一群が特殊任務を帯びたものであろうと推定し、アメリカ本土でのあらゆる情報を調査したが、
「7月16日ニューメキシコで新しい実験が行われた」
という外国通信社の記事を見つけただけであった。この堀が怪しいと思っていた一群こそが第509混成部隊であった。堀は原爆投下後数時間して漸く情報を結びつけることができ、深い後悔に囚われたという*3。しかし、第509混成部隊は味方をも見事に欺いていた。
 当時のサイパンのテニアン島自体は決して防諜面で安心できなかったようである。島には数百人の日本人がおり、近くの島にもかなりの数の日本人がいて、アメリカ人の行動は彼らの目にふれていた。米軍の行動、新しく陸揚げされた兵器、これらの情報はただちに東京にもれ、翌日「東京ローズ」によりラジオで放送されたという*4。しかし、原爆投下を目的とする第509混成部隊の任務は、友軍にも秘密を守り通せたようだ。第509混成部隊は他の部隊と違い、爆撃に出撃することは少なく、出撃したとしても原爆投下の訓練用だったので、模擬爆弾1発を搭載して日本に被害を与えることもなかった。そのうち、友軍からも「第509混成部隊は何をしているんだ?」と嘲笑のまとになり始めていた。広島原爆投下の2日前の8月4日、アメリカ空軍発行の新聞「テニアンニュース」には、以下の様な侮辱的な詩が掲載される始末であったという*4。インターネットに原文らしきものもあったので、並列で載せておく。

「だれも知らない秘密の姿」

空高く秘密の姿は舞いあがる
どこに行くのか、ゆくえを知る者はなし
翌朝基地に舞いもどる
どこに行ったか、すべて秘密のなかにある
何をしたのか、せんさくはしないこと
戦果をあげたに決まっている
ああ栄光の五〇九部隊

機動部隊がすすむとき
戦略・戦術すべてある
ハルゼー部隊が日本の本土を攻撃
マッカーサー、ドゥリトル、軍の幹部は知っている
何をしている五〇九部隊
戦果をあげてくれたなら
故郷に戻れて安泰だ
ああ栄光の五〇九部隊


[Nobody Knows]

Into the air the secret rose,
Where they're going, nobody knows.
Tomorrow they'll return again,
But we'll never know where they've been.
Don't ask us about results or such,
Unless you want to get in Dutch.
But take it from one who is sure of the score,
The 509th is winning the war.

When the other Groups are ready to go,
We have a program of the whole damned show.
And when Halsey's 5th shells Nippon's shore,
Why, shucks, we hear about it the day before.
And MacArthur and Doolittle give out in advance,
But with this new bunch we haven't a chance.
We should have been home a month or more,
For the 509th is winning the war.


本書*4の著者オキーフの半生は核兵器開発と共に有ったと言っても過言ではない。電子工学を専攻した後、ロスアラモスで原爆開発、テニアンにおける広島・長崎に投下された原爆の組立に始まり、様々な核兵器を開発と核実験に従事した。長崎投下原爆の組立に致命的なミスがあった話*5、第五福竜丸事件の原因となったビキニの水爆実験ではかなりの量の死の灰をかぶりながら脱出した話*6や、米陸軍が実施した280mmアトミックキャノンの少々杜撰な実験*7、8等興味深い話で満載である。

*1 近代未満の軍人たち、兵頭二十八、光人社、2009、p.25
*2 第509混成部隊[ウィキペディアより]
[URL]http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC509%E6%B7%B7%E6%88%90%E9%83%A8%E9%9A%8A
*3 大本営参謀の情報戦記、堀栄三、文芸春秋、1989
*4 核の人質たち、バーナード・オキーフ、サイマル出版会、1986、p.94
*5 *4のp.102
*6 *4のp.200
*7 *4のp.170
*8 アトミックキャノン[ウィキペディアより]
[URL]http://ja.wikipedia.org/wiki/M65_280mm%E3%82%AB%E3%83%8E%E3%83%B3%E7%A0%B2
by ferreira_c | 2014-08-05 15:43 | | Comments(0)
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blogに名を借りたほぼ月記。軍学者兵頭二十八に私淑するエンジニア。さる業界所属ゆえにフェレイラと名乗る。

by ferreira_c
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